コンプライアンス研修の目的
効果的なコンプライアンス研修を実施するためには、研修の目的を正確に理解する必要があります。ここでは、コンプライアンス研修の目的を10に分けて解説しています。10の目的は相互に密接な関係を有しており、複数の目的のためにコンプライアンス研修を実施することが大半です。これらを参考に自社のコンプライアンス研修の具体的な目的を決めていきましょう。
コンプライアンスに必要な知識
1.コンプライアンスの基本概念を理解する
コンプライアンス研修の1つめの目的は、コンプライアンスの基本概念を理解することです。コンプライアンスが企業にとって重大な課題となっている現代では、ニュースなどでコンプライアンスという言葉を耳にすることが多く、何となくイメージは持っていても、きちんと学んだことがない、正確に理解できているか不安だという方も多いのではないでしょうか。そのため、まずはコンプライアンスという言葉の意味を正しく理解することが、コンプライアンス研修の最初の目的となります。さらに、コンプライアンスの沿革やコンプライアンスの対象に加えて、CSR、コーポレート・ガバナンス、内部統制、リスクマネジメントなどのコンプライアンスに関連する概念についても合わせて理解しておくとよいでしょう。
コンプライアンスの意味については、コンプライアンスとはのページで詳しく解説しております。
2.法令を学ぶ
コンプライアンス研修の2つめの目的は、法令を学ぶことです。何を遵守すべきなのかを正確に理解しなければ、コンプライアンスを確保することはできません。コンプライアンスの対象を学ぶことは、コンプライアンス研修の大きな目的となります。その中でも、コンプライアンスにおいてまず遵守すべき対象であり、学ぶべき対象となるのが法令です。
法令には、国会が 立法する「法律」と、法律に基づいて行政機関が制定する「命令」があります。命令には、内閣が制定する「政令」、内閣 総理大臣が制定する「内閣府令」、各省大臣が発する「省令」や「規則」などがあります。また、コンプライアンスとの関係では、地方公共団体が制定する「条例」や「規則」等も、遵守すべき「法令」に含めることができるでしょう。
企業のコンプライアンスにおいて遵守が求められる法令は、会社法、労働法、独占禁止法・下請法、知的財産法、個人情報保護法など多岐にわたっています。これらの法令を正確に理解するためには専門的な知識が必要とされますので、弁護士などの外部の専門家に講師を依頼することが有効です。
3.社内規程・社内ルールを学ぶ
コンプライアンス研修の3つめの目的は、社内規程・社内ルールを学ぶことです。コンプライアンスにおいて遵守すべき対象には、企業内の様々なルールも含まれます。
多くの企業では、経営理念として、企業の社会における存在意義、果たすべき使命や役割を定めています。経営理念は、企業の経営において根本となるものであり、コンプライアンスにおいても、経営理念に照らして、自身の行為が正しいかどうか、真に会社の利益となるかどうかを常に念頭に置くことが有効です。
また、企業には、定款や就業規則をはじめ、組織、人事、経理、文書管理や情報セキュリティなどに関する各種の社内規程が存在します。せっかくこれらのルールを作成しても、十分に周知徹底することができなければ、コンプライアンスを確保することはできません。コンプライアンス研修は、企業内のルールを従業員に徹底する機会であるといえます。一方、企業内のルールについては、法令の改正や社会の変化に対応できるように定期的な見直しを行うことが大切です。外部の講師によるコンプライアンス研修は法令の改正や社会の変化を知るための機会となります。
4.社会的規範・一般常識を学ぶ
コンプライアンス研修の5つめの目的は、社会的規範や一般常識を学ぶことです。近年では、コンプライアンスにおいて遵守すべき対象として、社会的規範や一般常識等も含める考え方が一般的となっています。コンプライアンスが、しばしば「法令等遵守」と訳される背景には、このような考え方を意識的に明らかにしようという視点があるといえます。
重大なコンプライアンス違反の中には、社会的規範や一般常識に反する言動が原因となってしまうものも少なくありません。特に、インターネットやSNSが普及した現代では、インターネット・SNSを通じて個人が簡単に情報を発信できるようになったことにより、社会的規範や一般上意識に違反する行為について急速に情報が拡散されたり、大きな批判を受けることが多くなっています。
企業に入社したばかりの新入社員はもちろん、役員やベテランの従業員であっても、同じ企業内や業界内のみで仕事をしていると、自分達の常識が社会の常識とかけ離れてしまう場合があるため、あらためて社会的規範や一般常識に欠ける言動をとることがないように注意する必要があります。
また、社会的規範の内容自体が、メディアによる報道や、インターネット・SNSを通じて形成・変化する場合もあることに注意が必要です。外部の講師によるコンプライアンス研修は、自分達の常識が社会の常識とかけ離れてしまっていないかを確認するための機会となります。
5.コンプライアンス違反事例を学ぶ
コンプライアンス研修の5つめの目的は、自社や他社の不祥事事例を学ぶことです。法令、社内規程、社会的規範などの学習は抽象的になってしまいがちなので、実際に発生したコンプライアンス違反事例を学ぶことにより、具体的なイメージを持つことができます。
コンプライアンス違反事例は、自社のものと他社のものに分けられます。自社で実際にコンプライアンス違反が発生してしまった場合は、違反の内容や事実関係だけでなく、違反が発生した背景や原因を分析し、それを他の社員にも共有することで再発防止を徹底する必要があります。
同様に、他社の事例を学ぶことも重要です。特に、自社と同じ業種・業界の企業や、自社とビジネスモデルが類似する企業の事例は、これらを学ぶことで、自社において同様のコンプライアンス違反が発生するのを防止することが期待できます。また、違反の結果、どのような損害が発生したか、関係者がどのような処分を受けたかも確認しておくとよいでしょう。なお、他社の事例を学ぶ際に注意しなければならないのが、他社がやっているからといってコンプライアンス上、許されるとは限らないということです。例えば、入札談合の事例などでは、他社がやっているからといって自社も同様の行為を行ってしまった結果、他社と自社を含む多数の企業が根こそぎ摘発を受ける場合も少なくありません。コンプライアンス上、許されるかどうかは、あくまでも法令に従って慎重に判断しなければなりません。
リスクマネジメント
6.コンプライアンス違反のリスクを予測する
コンプライアンス研修の6つめの目的は、コンプライアンス違反発生時のリスクを予測することです。法令や企業内のルール、他社のコンプライアンス違反事例などを踏まえて、それらについて自社の現状がどのようになっているのかを認識する必要があります。その上で、自社でどのようなコンプライアンス違反が起こりうるのか、また、その可能性はどれくらいあるのかを予測します。
さらに、法令の罰則規定や他社のコンプライアンス違反事例などを踏まえて、実際にコンプライアンス違反が発生した場合、自社や従業員にどのような損害が生じるのかを評価しておくことも重要です。特に、近年では、1人の従業員によるSNSや動画サイトへの不適切投稿が、企業全体に甚大な損害を与えるケースも増えているため、注意が必要です。
7.コンプライアンス違反の防止体制を整備する
コンプライアンス研修の7つめの目的は、コンプライアンス違反の防止体制を整備することです。自社でどのようなコンプライアンス違反が起こりうるのか、また、その可能性はどれくらいあるのかについての予測を踏まえて、それらのコンプライアンス違反を防止するためにどうしたらよいかを検討する必要があります。例えば、コンプライアンス研修の参加者によるグループ討議を通じて、現場における問題点や改善策を洗い出し、それを社内のマニュアルに反映することなどが考えられます。
8.コンプライアンス違反発生時の対応を準備する
コンプライアンス研修の8つめの目的は、コンプライアンス違反の発生時の対応を準備することです。いかにコンプライアンス違反の防止体制を整備していたとしても、コンプライアンス違反が発生する可能性は完全には否定できません。そのような場合に慌てることなく、迅速かつ適切な対応ができるようにしておかなければなりません。実際にコンプライアンス違反が発生した場合にどのような損害が生じるのかについての評価を踏まえて、それらの損害を軽減するためのしておく必要があります。例えば、コンプライアンス研修の参加者に対して、コンプライアンス違反が発生した場合を想定した対応の訓練を実施することなどが考えられます。
企業価値と意識の向上
9.企業価値を高める
コンプライアンス研修の9つめの目的は、企業価値を高めることです。CSRやESGなどが重視される現代では、コンプライアンスは企業の評価に直結します。コンプライアンスに取り組む企業は、投資家、顧客や取引先などのステークホルダーから評価を得ることができます。コンプライアンスに熱心に取り組む企業は、投資家の投資判断において、不祥事のリスクが低く、長期的な成長が見込める魅力的な投資先となります。ままた、顧客や取引先も安心して取引を行うことができることから、ビジネスの拡大につながります。
また、M&Aの場面においても、コンプライアンスは企業の価値に直結します。対象企業にコンプライアンス違反が発生した場合、多大な手間とコストをかけて是正を行ったり、買収価格が大きく減額されたりするだけでなく、M&A自体がディール・ブレイク(破談)になってしまう可能性もあります。
コンプライアンスは、一見すると短期的な売上に直結しないことから、後回しにされてしまいがちですが、このように長期的な企業価値の向上につながることを念頭に置いた上で、コンプライアンス研修に取り組む必要があるでしょう。
10.従業員のコンプライアンス意識を高める
コンプライアンス研修の最後の目的は、従業員のコンプライアンス意識を高めることです。いかに法令や企業内のルール、他社のコンプライアンス違反事例を学び、コンプライアンス違反のリスクマネジメントを行い、企業価値を高めようとしても、従業員のコンプライアンス意識が高まらなければ意味がありません。従業員のコンプライアンス意識を高めることは、コンプライアンス研修の最大の目的であるといえます。各従業員が自らコンプライアンスの重要性を認識し、率先してコンプライアンスに取り組むようになることが理想的であるといえます。一方、定期的にコンプライアンス研修を実施していても、従業員のコンプライアンス意識がなかなか高まるとは限りません。特に、社内の従業員が講師を務める集合研修では、研修内容がマンネリ化してしまい、社員が緊張感やモチベーションを高めにくい場合もあります。コンプライアンス研修のテーマや実施方法を工夫することに加えて、外部講師の研修を依頼することも選択肢の一つになります。
お問合わせ
コンプライアンスに関するコンサルティング、研修、講師、費用等の詳細につきましては、下記のフォームより、お問合わせください。
Web:お問合わせフォームへ